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為替デリバティブ ディケンズ マルクス

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

1.今月(2012年3月)14日、米国のニューヨークタイムズ紙に、米国の大手金融機関ゴールドマンサックスの役員が、同社を批判する記事を投稿し掲載されました。私は、15日のインターナショナルヘラルドトリビューン紙の記事で知りました。

以前から、同社が、顧客ではなく、自社の利益を図っているのではないか、との批判がありました。実際、同社は、そのデリバティブ取引に関連して、米証券取引委員会(SEC)の指導を受けています。

しかし、今回は、ゴールドマンサックスを辞めることになったある役員が、同社に対する辛らつな批判を展開しています。「この一年間に、顧客を『操り人形』と呼ぶ幹部が5人いた」と表現するなど、内情暴露があまりにも具体的で強烈です。果たして、翌日から関連する記事が、日経等にも掲載されはじめました。

私は、現在、邦銀の為替デリバティブの案件を複数抱えているので、興味深く読み進めました。

2.先月(2012年2月)7日は、チャールズ・ディケンズ(1812年2月7日−1870年6月9日)の生誕200年の記念の日でした。

子供のころ、クリスマスキャロルを読んで、守銭奴のスクルージの行動に腹を立て、その後の展開に目を回し、ハッピーエンドに胸を撫で下ろした経験を思い出す人も多いのではないでしょうか。

現代では、大人の読み物とは認識されていないかのようなディケンズですが、最後に人間性を回復したスクルージを通じて得られる滋味掬すべきその教訓は、今もなお、いや現代にこそ生きていると言うべきでしょう。お金は、人々が幸せになるように使ってこそ、活きてくるのだと。

3.人々が金銭を選好し、人間との関係よりも貨幣を重要視することを問題として取り上げて考察を加えたのは、カール・マルクス(1818年5月5日−1883年3月14日)です。

彼は、それを「貨幣の物神化」と言いました。人々が、お金を、まるで神様であるかのように扱うからです。お金があれば、何でも手に入れることができるかのようです。その実体を考えずに、信ずることで安心を得られると思い込んでいるからです。貨幣は、その交換価値により、人類の最大の発明の一つとも言われます。しかし、その弊害もあります。実物資産やサービスと交換できるからこその貨幣であるのに、お金そのものが、人々の欲望の対象となっています。マルクスは、資本主義の次を考えることには失敗しましたが、その本質を探究することにおいては、素晴らしい成果を挙げたと思います。「資本論」は、何度でも読み返す価値があります。

しかし、現実社会においては、マルクスから200年を経た今現在、貨幣の「バブル」は、真っ盛りです。

経済学は、為替デリバティブの理論的基礎を提供したブラック・ショールズ方程式など、「貨幣の物神化」に奉仕するものが跳梁跋扈しています。貨幣の普遍化、抽象化が極限まで進んでいます。

これに対して、貨幣経済を実物経済に近づけようとする提案がなされています。例えば、一定期間に使いきらなければ消滅してしまう貨幣、例えば、使用の用途が指定されているような貨幣。

マルクスの「資本主義」の次を考えるのは、我々の仕事です。

スクルージの改心を理論化する経済学は、まだ一般には広まっていないようです。

4.為替デリバティブに苦しむ企業経営者がいます。実物経済の側において、優秀な製品を作り出し、社会に貢献しながら、貨幣経済の陥穽に落ち込んで、身動きが取れなくなっています。

解約(支払停止)、金融ADR、訴訟、再生手続などなど、解決手段の選択には慎重な考慮が必要です。

私は、経営者が、賢明な手段を選び、再び、実物経済の社会において活躍できるよう、お手伝いができることをうれしく思っています。

それは、実は、貨幣経済の再生にもつながるものだと信じています。

かつて、自然科学の勃興とともに、神の役割は変化しました。それは、単に「神は死んだ」というのではありません。自然科学(サイエンス)を知れば知るほど、自然に対する畏敬の念は高まります。かくして自然を統べる存在としての「神」の座は、私の中において、ますます高まりこそすれ、堕することなどありえません。見えるのは、「神」を利己的に利用しようとする人間の業です。「神」は、しかるべき位置にありながら、ますます光を放っています。特定の信仰とは別に、このような宗教的情操を持つ人は、私一人だけではないはずです。

為替デリバティブの問題は、実物経済と貨幣経済の争いの一環です。金融商品取引法が適合性の原則を謳い、金融機関は顧客の知識、経験、財産の状況及びデリバティブ取引をする目的に照らして不適当な勧誘をしてはならないと定めるのは、実物経済と貨幣経済の乖離を防止する趣旨と解釈できます。資産と貨幣とのそれぞれが、その持ち場を自覚し、役目を最大限に発揮して、人間の幸せに益する存在として再び光輝く日を夢見ながら、私は、今日も、解決方法に知恵を絞ります。

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