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平成25(2013)年9月のコラム一覧へ戻る

高野隆監修「DVDで学ぶ裁判員裁判のための法廷技術(基礎編)第2巻」がでました

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

先にご紹介した(平成23年5月の当コラム)、弁護士の高野隆先生が監修なさった裁判員裁判のDVD「DVDで学ぶ裁判員裁判のための法廷技術(基礎編)」(現代人文社)の続編です。

高野隆弁護士は、言わずと知れた、当事務所の元代表弁護士。私の師匠。

高野先生は、裁判員裁判で、現在までに無罪が言い渡された事件の内3件を担当しています。

その高野先生が関与したDVDです。証人尋問を中心に、悪い例、良い例を示して、分かりやすく解説しています。

いつ、観るの。今でしょう。

本DVDは、弁護士や検察官、裁判官及びその卵が参照すべきはもちろんです。高野先生は、証人尋問の実地訓練の重要性を強調します。私も、その意見には賛成ですが、同時に、多数の事例を頭に入れておくことの重要性を主張したい。そのための基本的な本として、ストライカー「弁護の技術」(Lloyd Paul Stryker The Art of Advocacy 1954)、ウェルマン「反対尋問」(Francis L. Wellman The Art of Cross-Examination 1903)などがあります。残念ながら、翻訳書は、いずれも絶版です。関係者の奮起を期待したい。これらは、法廷弁護士になろうという人の必読書と言っても過言ではありません。さすがに、英語の原書は今でも入手可能です。

しかし、私は、それ以上に、これらのDVDを、裁判員に選ばれた一般の人や、そうでなくても裁判員裁判、裁判、証人尋問に興味がある一般の方に、観ていただきたい。

実は、証人尋問は、非常に高度の「読解力」を要します。

実際の裁判では、時代劇ではないので、証人が、お白州で、私が嘘をついていました、悪うございました、と涙を流すことはありません。裁判官や、裁判員に、あれ、この証人は嘘をついているのかな、ちょっと信用できないな、と思わせることができたら大成功なのです。

実際の裁判では、大声で証人を威嚇したり、事実を伴わない理詰めの議論で証人を困らせたりした弁護士が、傍聴席から喝さいを浴びるというのが、残念ながら、よく見られる光景です。

裁判員、ひいては国民全体が、批判的思考力を身に着けるというのが、裁判員裁判の究極の目的である、と私は考えます。国民が主権者として自己統治能力を高める、というのがその至高の目標です。反対尋問は、為政者や有力者の嘘やプロパガンダを見破る能力を身につける有力な手段です。そして、有罪を主張する検察官と、無罪を主張する弁護人の真っ向から対立する意見を、弁護人の反対尋問の結果を交えながら、議論を通じて結論を導き出すという経験は、一人、裁判のみならず、民主主義を実のあるものにすることに通じると信じています。

一般国民が、各弁護人の「技」を鑑賞して、その力量を云々できるようになった社会というのは、なんと素晴らしいことでしょう。本DVDは、先のそれに引き続き、そのためのガイドブックとして、最も適切な教材であると、確信しています。

能でいう「見せ場」のようなものです。国民が全員、「見巧者」(みごうしゃ)となるのです。

その意味では、先生が、アメリカ流に、証人尋問は、事実発見の場ではない、と言い切っていることは、気になります。

この点は、裁判を統治機構のなかでどう位置付けるか、という問題や、論者の世界観、人生観にも関わってきそうです。

いつか、先生と、じっくりこの点を議論したい。酒を飲む前に。

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