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平成25(2013)年10月のコラム一覧へ戻る

ハリネズミの正義(Justice For Hedgehogs)を読む

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

1.ロナルド・ドゥオーキン(Ronald Dworkin) が、今年(2013年)2月14日、亡くなりました。彼の最後の本が「ハリネズミの正義」(Ronald Dworkin Justice For Hedgehogs (2011))

彼の初期の有名な本は、Taking Rights Seriously(1977) (邦訳の題は「権利論」)。雑誌にも、彼の論文が好んで掲載されていた時期がありました。

彼の、どんな難問にも正しい答えはある、という主張に、勇気づけられた人もいることでしょう。

法哲学の嶋津格先生が、法律問題の答えを求めるのは、社会(や法曹)が「発見共同体」となることだとおっしゃるとき、ご自分も認めていらっしゃるとおり、ドゥオーキンの影響が窺えます。

2.ただ、今となっては、いかにも古い。進化生物学も、数学も、出てきません。

亡くなる少し前のこと、ある学会で、ある学者が、ドゥオーキンに対して、「あなたは既に歴史的存在だ」と言って、周囲の爆笑を誘ったということがあったそうです。彼の業績を讃えたジョークと理解されたのでしょうが、中には、その古さを皮肉ったと理解し、顔を青ざめさせた人もいたのではないでしょうか。

とはいえ、彼の新著は、さまざまな論点に触れており、とても興味深いのは間違いありません。その主張に同意する人にとっては、力強い一冊が加わることとなりました。意見を異にする人にとっても、教養とは何か、そしてそれによって身を律するとはどういうことかを考えるとき、参考になる本だと思います。

3.弁護士は、対立する当事者のどちら側にでも付くのが基本です。事件では、自分の依頼者に有利な事実を探し、自分の依頼者に有利な法律論を展開します。いわば、一方当事者になって、言いっぱなしです。自ずと、価値相対論となります。

これに対して、裁判官は、両当事者の言い分を聞いて、どちらが正しいかの判断をしなければなりません。その意味では、裁判官には、他の法曹、弁護士や検事とは違った難しさがあります。

ドゥオーキンの本は、裁判官が、この事案に正しい答えはある、そしてその結論はこうだ、と思いたいとき、助けになってくれるかもしれません。

その意味で、悩める裁判官にこそ、本書を薦めたい。

4.本書を翻訳したいという人は、日本にも何人かいそうです。しかし本書を出版しようという出版社は、はたしてあるでしょうか。発行部数には、限度があるでしょう。本書の日本語訳が日の目を見る日はなさそうです。

そのことは、本書の価値を低めることにはならない、と、確信するのは、私一人ではないはずです。

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