2013.03.06

大塚 嘉一

クレーム処理、クレーマー対応の方法と弁護士の役割

1.クレーマーと聞くと、あまりいい感じがしません。しかし英語では、クレーム claim とは、主張する、とか、要求する、という意味で、変な意味はありません。claim をする人という意味では claimant という単語があります。日本語でクレーマーというと、単に主張、要求をする人という意味ではなく、主張に根拠がなかったり、要求が並外れていたり、主張要求の態様が異常だったりする人を言います。

クレーム、クレーマーは和製英語なのでしょう。英語では、それぞれ、complaint、complainer と言うようです。

駄洒落の好きな小父さんは、クレーマーの話題になると、「あった、あった。昔、『クレイマー、クレイマー』っていう映画があった。」と言い出します。しかし、あれは、原題は Cramer vs. Cramer です。lとrで全く違う音になりますので、英語のネイティブにしたら、駄洒落にも何もなりません。

2.クレームには、良いクレームと、悪いクレームがあります。

良いクレームとは、それにより、企業、病院、役所などが、問題点を把握することができて、改善をうながすようなクレームです。クレームは、会社にとって宝の山だ、とまで言われます。 悪いクレームとは、企業、病院、役所の担当者を困らせ、疲弊させ、企業、病院、役所に害を与えるようなクレームです。

良いクレームか、悪いクレームかは、その主張内容と、主張態様とで判断します。

主張内容に根拠がなく、主張態様が非常識である場合、文句なく悪いクレームです。

主張内容に根拠がなく、主張態様が常識的である場合、良いクレームではなく、悪いクレームとなりえます。

主張内容に根拠があり、主張態様が常識的である場合、悪いクレームではなく、良いクレームとなる可能性があります。

主張内容に根拠があり、主張態様が非常識である場合、悪いクレームと見られることが多いでしょう。しかし、良いクレームとなる可能性もあります。程度問題ではありますが、主張態様が非常識だからといって、悪いクレーム扱いをしてはいけない、ということです。

主張内容に根拠があるかないかの判断基準は、法的根拠があるかないか、です。クレーマーの感情や不平、不満、怒りではありません。

法的根拠の有無については、専門家の判断を仰ぐ必要がある場合もあります。

3.法的根拠の有無については、専門家の判断を仰ぐ必要がある場合もあります。

いつ、どこで、誰が、何を、どうして、どのようにしたのか。いわゆる5W1Hです。

明確にするためには、メモをとる必要がある場合もあるでしょう。

そのうえで、根拠があるかどうかを判断します。

根拠があるのであれば、それに沿った対応をします。説明義務があるのであれば、説明義務を尽くします。必要であれば謝ります。しかし、賠償は別です。「不愉快な思いをさせてしまったとしたら、それについては申し訳ございません。しかし、賠償義務の存否、金額などについては、後日検討させていただきます。」と言いましょう。賠償額などは、専門家の判断を仰ぐ必要がある場合があります。

根拠がない場合はどうするか。私が提案したいのは、相手の要求を拒否、拒絶することです。相手は、企業の場合はお客さんであり、病院の場合は患者さんであり、役所の場合は市民であるので、担当者としては、無下に断れない、という気持ちが強く働くかもしれません。しかし、顧客、患者、市民第一という姿勢も、度を過ぎれば、他の顧客、患者、市民に対するサービスを減じるという結果にもなるのです。

苦情については、一生懸命聞く、という姿勢が大事ですが、相手の立場を過度に尊重し、相手の人生に関わってはいけないのです。この点、企業はそれでもいいかもしれませんが、病院や役所は少し、事情が違うかもしれません。病院、医師は診察を断れないし、役所は福祉行政に典型的なように相手の人生そのものに関わるからです。しかし、原則は、根拠のない要求は、断ること、なのです。

その基本的な対応ができず、問題をいたずらに長引かせている例は少なくありません。

4.法的根拠のない主張が、クレーマーの主な要素だとしても、その判断が難しい場合もあります。そこで、主張態様から、クレーマーか否かを判断することが考えられます。以下のような場合には、クレーマーと推定してよろしいかと思います。

1.自分の住所、氏名を明かさない、名乗らない。暴力団組員またはその関係者であると告げる、ほのめかす。

2.クレームの内容が明らかでない、次々に変わる。誠意を示せなど、はっきりしない要求をする。要求額が異常に高い。まったく関係のない要求をする。要求の根拠がないか、または不確かである。特別待遇を要求する。

3.主張態様において、自分の責任を棚にあげて相手の過失を一方的に言い募る。責任者を出せなどと言う。担当者だけでなく、いろいろな部署に苦情を持ち込む。担当者の関係のない言動を問題とする。念書を書けと言う。マスコミ・暴力団・監督官庁に言うとおどす。こちらの話を理解できないふりをする。同じことを繰り返す。常識的に理解できない理由を展開する。仮定の話を続ける。いつまでも帰らない。直ぐに来いと要求する。担当者を自宅に呼んで帰さない。代金、治療費、費用を払わずに文句ばかり言う。当方の常識的な提案を受け入れない。

5.クレームを拒否すると決めたあとの対応方法はどうするのか。

法的義務以上の要求に対しては、相手の要求を拒否することを相手に伝えます。そして、取り合わない、放置するのです。

相手が居座るときは、不退去罪となりえますから、場合によっては、警察の協力を得て退去を求めます。

相手の主張に理由がないときは、債務不存在確認の訴訟を提起することもできます。当方が損害を被ったときは、損害賠償請求を求めることも可能です。

明白な刑事事件の場合には、遠慮なく警察を要請しましょう。

相手が、暴力団組員であるとき、またはその関係者であるときは、警察、弁護士と協力して対応する必要があります。

常に自分の役目は何かを問い続ける必要があります。その際、法的根拠が問題となるのであれば、弁護士は、役に立つはずです。