2008.02.12
同族会社の株式買取請求と交渉の極意
1.自由民主党は、平成19年12月13日、平成20年度税制改正大綱を発表しました。注目すべきは、非上場の中小企業の株式の相続税控除を拡大する方針を決めたことです。中小企業の事業承継を容易にするのが主眼のようです。
従前、同族会社の株主・経営者が、会社の株式を相続し承継する場合、その評価額の10パーセントが控除されましたが、これが80パーセントになります。
これですと、会社株式を相続したほうが有利な場合もありますので、事業承継者が株式を買い取る場面も多くなりそうです。
ただ、相続税逃れを防ぐために、事業の継続や従業員の雇用の保証などが要件となります。
2.同族会社の株式の買取を希望する株主がそれを実現する方法は、株式を買ってくれる人への譲渡の承認を会社に対して求めるというものです。それを拒否する会社は自らこれを買い取る等の対応をしなければなりません。したがって買主が見つからないときには、会社なり他の株主が買い取るときにしか、売却できませんし、代金価格の決定についても買主の意向に左右される度合いが大きくなります。
ただし上記の改正が実現すれば、交渉で買取請求が実現する機会が増大するものと考えられます。
3.およそ交渉の極意は、相手にメリットのある解決策を考え(当方にメリットがあることは当然の前提です。)、相手にそれを理解してもらうことにつきます。甘言やレトリックではありません。いわんや強制や威圧では、絶対にありません。相手が思ってもいなかった素敵な案を提示できたら最高です。
双方にメリットがある解決案が存在しうるのは、人間は、それぞれ多様な価値観を有しているからです。交渉そして取引(交換)には、個性を持った人間相互の、したがって社会の全体の幸福の絶対値を増加させる機能があります。
同族会社の株式買取請求で言えば、会社の支配権を確保したい人と、株式を現金化したい人との思惑が一致したときに、双方が満足する取引が成立する可能性があります。上記の税制改革が実現すると、そのような場面が増えることが予想されます。
4.同税制改革は、これを定めた事業承継円滑化法(仮称)の施行の日(平成20年10月予定)以降の相続に遡って適用されるそうです。同族会社の株式を有する人は、今後の行方を注意深く見守る必要がありそうです。