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国際機関で働く弁護士
1.はじめに
近年、外国に留学する日本人の弁護士が増えています。日本社会において、仕事の仕方や社会の仕組みが国際化するにしたがって、弁護士にもこれに対応した法律業務をする能力が求められているためでしょう。
私は、2002年から2004年にかけてアメリカに留学しました。1年目には、ワシントンDCにあるジョージタウン大学ロースクールロースクールに通って学位を取得し、その後ニューヨーク州の司法試験を受験しました。2年目は、世界銀行グループの一機関であるMIGA(Multilateral Investment Guarantee Agency。多数国間投資保証機関)法務部(ワシントンDCにあります。)で実務研修をしました。通常アメリカに留学する弁護士は、法律事務所で実務研修をする場合が多いので、私のように国際機関で実務研修をするケースは珍しいということです。そこで、国際機関で働く弁護士について少しご紹介したいと思います。
2.国際機関の法務部
日本で弁護士というと、法律事務所に所属し、民事事件や刑事事件の法廷で依頼者のために弁論をするというイメージが強いと思います。最近は、会社の法務部などで社員として働いたり、官庁などで期限付き公務員として勤務する弁護士も増えてきましたが、日本では弁護士全体の数が少ないこともあり、まだまだ少数派といえるでしょう。
しかし、弁護士の数が大変多いアメリカでは、法廷以外のいろいろな場所で弁護士が活躍しています。国際機関などの法務部もそのひとつです。
法務部に所属する弁護士は、日々の業務の中で生じる法律問題に対応するのが仕事です。弁護士でないスタッフの人たちが仕事をする上で、何か法律に関係するわからないことがあると、駆け込む先が法務部ということになります。同じ組織の中で継続的に仕事をしていると、似たような論点が繰り返し問題になることがよくあります。このため、法務部の弁護士はその組織内の法律問題に精通するようになり、過去の事例などに沿って一貫性のある正しい事案の処理が可能になるというメリットがあります。
3.MIGA法務部の業務
私が実務研修を行った国際機関は、MIGAといって、海外直接投資を促進することによって発展途上国の経済発展及び人々の生活向上を図ることを目的とする国際機関です。MIGAの主な業務は、発展途上国に投資をする企業に対して海外投資保険を販売することです。スタッフの数は約130名程度で、現在の長官は日本人女性です。
MIGA法務部は、法務部長(General Counsel)を筆頭に7人の弁護士で構成されています。弁護士の国籍は、スペイン、スリランカ、フランス、アルゼンチン、インド、アメリカとまさにインターナショナルです。
私は、実務研修中、保険契約の締結(契約書作成)及び保険金請求事案の処理などをお手伝いしました。
4.国際機関で働く日本人弁護士
MIGAのあるワシントンDCには、ほかにもいくつかの金融系国際機関が本部を置いています。中でも世界銀行は、職員数は約2万人で、法務部には100名以上の弁護士が働いています。しかし、現在のところ日本人の弁護士は2名しかいません。IFC(国際金融公社)という国際機関にも50人以上の弁護士がいますが、日本人弁護士は1名だけです。IMF(国際通貨基金)には日本人弁護士はいません。これらの機関で働いている日本人の弁護士は、いずれもアメリカないしイギリスの弁護士資格を持っている弁護士で、日本の弁護士資格をもっている弁護士はひとりもいません。
一般職職員を見ても、世界銀行等の国際機関に日本政府が多額の拠出をしているにもかかわらず、日本人の職員数は少ない状態が続いています。原因のひとつは、日本人には英語でのコミュニケーションが得意な人が少ないためとも思われます。私は、将来、国際機関で働く日本人がもっと増えるべきだと考えています。特に日本の弁護士は、他の国の弁護士と比べても法律家として優秀だと信じています。もっと多くの弁護士が、その力を国際機関で発揮する機会が増えれば、日本のためにも世界のためにも役に立つことができると思っています。