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彼岸に寄せて相続問題を考える
1.「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったものです。本当に、彼岸を過ぎると、とたんに過ごしやすくなります。彼岸と言えばお墓参り。多くの日本人は、ご先祖の魂は、あるいは霊は、お盆に帰ってくると考えているのではないでしょうか。勿論、魂という物体が存在しフワフワ浮いている、というのではなく、なんとなくいるような気がする、そして見守ってくれているように感じる、と言ったらいいでしょうか。「人間は死ねばゴミになる」(伊藤栄樹元検事総長)というのは、一つの理性的な把握ではあっても、多くの日本人の生活実感からは距離があるのではないでしょうか。プラトンも、死後の魂の世界を考え、励むことは、意味のある美しいことである、と言っています(「パイドン」)。
なお、このような日本人の先祖への思いは、仏教ではなく儒教に由来するという指摘があります(加地信行「儒教とは何か」中公新書)。
2.さて、魂の探究は、ひとまず置いて、現実社会にもどりましょう。人の死亡と同時に、相続が発生します。死亡した人の身分関係や、財産関係の処理が必要になります。 亡くなった人(これを「被相続人」と言います。)が残した財産(遺産)の承継の問題が発生します。遺産が、5000万円+(1000万円×法定相続人の数)を超えていれば、相続税を検討する必要があります。
相続人間で、遺産分割の協議が整わないときは、遺産分割調停の申立をします。調停で協議がまとまらないときは、最終的には審判で分割されます。被相続人が遺言書を残していたときは、まずは、その遺言によって、相続されます。これに対して、法で認められた自分の取り分(これを「遺留分」と言います。)を侵害されたと主張する者は、遺言で遺産を取得した者を相手に、遺留分減殺請求の訴訟を提起することができます。その取り分は、訴訟で決着をみます。このようにして、被相続人の遺産は、家族共同体に解消されます。
被相続人に相続人がいないときは、相続財産管理人選任申立がなされます。遺産は、特別利害関係人に渡されるか、国庫に帰属します。国庫に帰属するとき、故人が国家共同体の構成員であったことが現出するのです。
いずれの段階でも、弁護士を代理人として、委任ができます。
3.このように、人の死は、いやおうなしに、その人と家族や国家との関係の解消を迫ります。そして、その際、法律は、すなわち国家共同体は、必ずしも、被相続人の意思(遺志)を全面的に尊重するものではありません。遺産を全部、妻や子らに残したいと思っても、遺産総額が基礎控除額を超えていれば、相続税を払わなければなりません。また、前述のように被相続人が遺言書を残したとき、遺留分を侵害されたと主張する者は、遺留分減殺請求の訴訟を提起し、遺言書の内容と異なった遺産取得を実現できるからです。
4.相続問題において、同じケースは一つとしてありません。被相続人の生前の生き様、相続人との関わり、そして相続人の被相続人への思いなどが、皆それぞれ違うからです。私は、弁護士として、これからも、相続問題を扱っていくことでしょう。その際は、喜んで、依頼者とともに、被相続人が、生前、どのような思いで生きていたのか、あるいはその思いの法律的限界は何か、などを探求することに努めます。それは、個人と共同体との共存の条件如何という私の生涯をかけてのテーマにも通じるからです。