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平成19(2007)年1月のコラム一覧へ戻る

伝大塚冨五郎

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

1.大塚冨五郎というのは、私の六代前のご先祖様です。

私が幼いころ、祖父の膝に腰掛けながら、聞かされた話しです。

その昔、本家に、冨五郎という息子がいたそうです。名前からして、長男ではないのでしょう。冨五郎は、馬が好きで馬が好きで、年中馬の世話ばかりしていたそうです。婿に行く気もなさそうです。そこで、馬と土地三畝を与えて、分家に出しました。すると、そんな冨五郎でも世話をしたいという女がいたらしく、やがて、子供にも恵まれました。そして、馬の糞がいい肥料となって、作物もよく実りました。そうやって、土地をだんだんと買い増しました、と。

2.私はといえば、クルマ(自動車)が好きです。馬を乗り物と考えれば、同じ乗り物好きとして、冨五郎さんに親近感を覚えます。

今でも自動車を買ったとき、納車する営業マンが若い人の場合、日本酒の杯を差し出すと不思議そうな顔をされることがありますが、昔、馬を買ったときに振舞ったものだと由来を説明すると笑顔で納得してくれます。

私が冨五郎の時代に生まれていれば、馬が好きになったのではないでしょうか。逆に、冨五郎が現代に生を受けていれば、クルマに夢中になったことでしょう。

3.私の自慢のクルマは、1968年から翌年にかけて150台が製作されたイタリヤのスポーツカー、フェラーリのディーノ206GTそのうちの一台です。平成3年に売りに出たのを見て、市場に出ることが稀なものなので、思い切って手に入れました。あつかましくも高野先生に連帯保証人になってもらい、銀行から借り入れを起こして、買い求めました。 

1960年代は、現在もなおF1で見るように最高のエンジンレイアウトとされるミッドシップが開発され、レースでその性能が実証されて、市販車への応用が試みられていたころです。エンジニア、デザイナーが、アイデアを出し合い、センスを競い合っていました。そのなかで、私のクルマは、ロードカーとしては今なお高性能と美しさとが最も高い次元で融合したものの一つと評価されています。

4.クルマは、糞をしません。したがって、農作物がよく実るという実利もありませんでした。しかし、私には、このクルマが縁で、各界の個性豊かなたくさんの友人・知人ができました。弁護士の業務とは関係のない、私の貴重な「財産」です。

すでに神は死に、「大きな物語」を失った現代に生きる我々に残されているのは、日常生活のディテールに喜びを見出し、人生を充実させる途しかないのではないでしょうか。夢中になれるものがあるというのはとても幸せなことだと思います。神様に感謝すべきかもしれません。(?)ましてそれが、社会的な広がりに結びつくのであればなおさらです。

深夜、妻子が寝息を立てる傍らで、メッキの光る部品を愛でながら磨いているとき、ふと、冨五郎さんはどんな思いで馬の世話をしていたのかな、と想うのです。

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