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「遺留分の法律と実務」刊行のころ

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

「遺留分の法律と実務」と題する本があります。副題は、「相続・遺言における遺留分減殺の機能」。平成3年9月30日に初版が発行され、埼玉弁護士会が編者となっています。

今でこそ、遺留分に関する最高裁判例もほぼ出揃い、実務の指針となっていますが、当時は、まだまだ議論のあった分野です。戦前の家督相続を前提とした遺留分の規定を、戦後の平等な相続に、どう適合させるか、学者や実務家が知恵を絞っていました。埼玉弁護士会の弁護士は、時に大胆に論理構成をし、一冊の本に纏めました。それが、前掲の書です。


東京高等裁判所の管内の弁護士会のうち東京の三弁護士会を除いた十県の弁護士会で、関東十県会という団体があります。その関東十県会では、毎年夏に持ち回りで研修会をすることになっています。

平成3年は、埼玉弁護士会が担当となり、遺留分をテーマとすることになり、その準備委員会を立ち上げ、勉強会を続けました。その結果が上記の本となって実を結んだのです。今でこそ、類似の本が書店に並んでいますが、当時は、本当に画期的な本でした。

昭和63年に弁護士になったばかりの私は、その準備委員会の一員に加えてもらいました。準備委員長は、後に司法研修所で民事弁護の教官となる馬橋隆紀先生です。

馬橋先生を初めとする緒先輩の先生方に混じり、判例を読み込み、学者の評論を検討し、苦しくも、楽しい勉強会でした。なかでも、一番の親分格(?)は、畑仁先生です。先生は、今もお元気でご活躍ですが、当時から、年季のいった弁護士に対しても、我々のように成り立ての弁護士に対しても、同じように接してくださいました。それは、やさしい、という意味だけではなく、厳しいという意味でも同じでした。私は、準備委員会の集まりのたびに、当時、買ったばかりのノートパソコンを持ち込み、その場で整理し、また、前回指摘された箇所を修正した原稿を持参しました。畑先生に、自分でもあやふやな点を指摘されると、身が震えたのを覚えています。因みに、畑先生は、母校の日比谷高校で、あのベストセラー「赤頭巾ちゃん気をつけて」の作者庄司薫と同級生だったそうです。


準備委員会では、泊り込みでの合宿もしました。やりたいようにやらしてくださった当時のボス弁である菊地先生及び高野先生には、私が経営弁護士となった今、改めて感謝の念を抱いています。


「遺留分の法律と実務」は、平成17年に、新版が出版され、今も埼玉弁護士会に印税収入をもたらしています。

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