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為替デリバティブ取引と弁護士の役割
1.昨今の円高で、為替デリバティブ取引による為替損失で苦しんでいる中小企業が多いようです。経営努力により本業で利益を出している優良企業が、為替損失によってその利益を吐き出し、さらには倒産の危機に瀕しているとしたら、本当に残念なことです。
今年(平成23年)1月には、為替デリバティブで多額の損失を出した中小企業に対して金融庁の行政指導により3メガバンクが資金繰り融資に乗り出す、との新聞報道がありました。経営者にとっては、ありがたい話のようにも聞こえます。
しかし、その前にやることがあるはずです。
2.為替デリバティブ取引とは、為替を対象とする金融派生商品です。具体的には「通貨オプション」、「クーポンスワップ」、「長期為替予約」などがあります。デリバティブ取引について規制しているのは、金融商品取引法です。同法は、@適合性の原則、A説明義務について定めています。
適合原則とは、金融機関は顧客の知識、経験、財産の状況及びデリバティブ取引をする目的に照らして不適当な勧誘をしてはならないという原則です。説明義務とは、金融機関に対し、デリバティブ取引の際、元本割れのおそれがある旨、市場リスク、取引の重要部分等について説明することを義務付けるものです。
実際の取引の際、金融機関の法令違反はなかったのでしょうか。
例えば会社にドルの実需があったのでしょうか。なければ適合性の原則に反する可能性があります。リスクや高額な違約金について、充分、説明されましたか。充分な説明がなければ、説明義務違反になる可能性があります。
金融商品取引法は、これら義務の違反について、金融機関の賠償義務を定めています。
さらに取引が錯誤により民法上無効とされる場合もありえます。
デリバティブ取引についての判例は、平成17年7月4日の最高裁判決を始めとして数々ありますが、為替デリバティブ取引についても、今後、多数の事例判例がだされることでしょう。
3.為替デリバティブ取引は、大手銀行など世間的に信用性が高いと考えられる金融機関が扱っていること、相手は会社経営者であって判断能力の劣った高齢者などではないことなど、会社側に被害者意識のないことが多いようです。
しかし、かつての不動産バブルのころの過剰融資のように、銀行側に、各支店のノルマ達成の負担があったとも言われています。
取引の際、営業担当者から、どのような説明を受けたか。本当にリスクについて理解していたか、などなどについて、改めて検討してみる価値があります。
当該銀行から資金繰りの融資を得られたとしても、それは債務の付け替えに過ぎず、抜本的な解決にはなりません。
金融機関は、取引先に対して申し訳ないと考えていたとしても、法により損失補填をすることが禁じられています。第三者が解決の場に加わったほうが、早期に適切に解決することもありそうです。
4.為替デリバティブの問題の解決のためには、金融機関による法令違反があるかどうか、当該金融機関との今後の関係をどうするか、第三者に委ねるとしても訴訟にするかADRでの解決をはかるか、訴訟での証拠の価値の評価、勝敗の見込みなどなど難しい問題が控えています。
客観的な分析が要求されています。
「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資する」という金融商品取引法の趣旨の実現に弁護士が貢献できることがありそうです。