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ハーバート・ギンタス「ゲーム理論による社会科学の統合」(成田悠輔他訳)の出版を喜ぶ
1.ハーバート・ギンタス著「ゲーム理論による社会科学の統合」(成田悠輔他訳・NTT出版2011年7月21日)が出版されました。原著は、Herbert Gintis The Bounds of Reason 2009.。
原著の出版から遅れること2年。学術書としては、まずまずの早さでしょうか。
これにより、人間社会の進化についての標準的な理論が、日本語で読めることになりました。全く持って慶賀に堪えません。より詳細な理論の説明を求める人には、同著者のGame Theory Evolving, Second Edition 2009があります。より視野の広い考察のためには、共著によるMoral Sentiments and Material Interests 2005、A Cooperative Species 2011があります。
うれしいのは、本書の翻訳に当たったのが本邦の若い学徒であること。これからの訳者たちの活躍を期待します。
ゲーム理論は、当初の子供のおもちゃのようなものから、微分方程式などを使った複雑なものに進化しています。扱う対象も広く多角的になっています。
訳書の題「ゲーム理論による社会科学の統合」は、原著の副題Game Theory of The Unification of The Behavioral Sciences から採ったものでしょう。そのとおり、社会科学を統合しようという志は壮大なものですが、まだ何か足りない。
どのようにして社会が秩序を形成するのか、という伝統的な社会学の問題関心のうちに、本書は収まってしまっています。
個人の創意、情熱、美意識という観点が欠けています。
しかし、それは無い物ねだりなのでしょう。
社会に対して、個人が抗うこと、それが新しい社会を形成し新たな秩序を生み出すこと。また、それに対する個人の反逆があること……。
それらは、本書の内容を理解したうえで個々の経済学者や政治学者、法学者、心理学者、社会学者、文学者、生物学者などが自分の理論として組み立てるべきものなのでしょう。
本書の訳者たちは、経済学畑の人のようです。果たして、生物学関係の人ではありませんでした。もうそろそろ、日本の生物学者は、生物進化の集団選択についてどのように考えているのか一般人に向かって発言すべきでしょう。本書は、そのいいきっかけとなりえたのに、残念です。
2.アップル社の代表スティーブ・ジョッブスが、今年8月24日、同社代表を辞任することを発表したそうです。
彼が、合理性に逆らって活字(タイポグラフィー)にこだわる事が無かったならは、パソコンをめぐる環境は、今とは、全く異なるものになっていたでしょう。
彼が、美しい書体を備えた最初のコンピューターであるマックを完成させなければ、世界も、今とは違っていたはずです。
個人の美意識が世界を変えうるということを確認しながら、本書を読み進むのは、考えることをせざるをえない人間に許された最高の贅沢である、そう私は思います。