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仮処分を活用した反社会的勢力対応の実務と書式−不当要求行為への実践対策(民事法研究会)編集後記
神々を作り出す機械。
この畏れ多くも美しい言葉を紡ぎ出したのはベルクソンである。彼は、正義が、彼岸の神によって作り出されわれわれに与えられるのではなく、現世のわれわれ一人ひとりが、所与の条件のもとで、その情熱と責任とによって、この世に実現するべきものであることを説く。神々を作り出す機械とは、この宇宙である。
最新の社会進化についてのゲーム理論の知見によれば、社会正義を実現するためには、社会構成員の全員が100パーセントの正義感を持って行動することは必ずしも必要ではなく、各人がその持ち場において、それぞれ何パーセントか、何十パーセントかの正義感を発揮して連帯する必要があり、かつ、それで足る。
反社会的勢力、すなわち暴力を背景に不法、不当に自分達の利益を図る者達に対抗するためには、われわれは、その責任に応じて協力しあう必要がある。平成4年に施行された暴力団対策法によって地下にもぐった反社会的勢力に対して、我々国民が一団となって対抗することは、時代の要請でもある。近年その基本的精神を同じくする暴力団排除条例が、各都道府県で次々に制定され、平成23年10月1日の東京都及び沖縄県の暴排条例の施行をもって、全国的に完備されることとなったが、それは偶然ではない。
暴力団の排除が実現したなら、次の難問が立ち現われるに違いない。人間の社会がある限り、そこから暴力を完全に取り除くことはできないであろう。その時々の反社会的な暴力に苦しむ者を救済できるのは、いつの時代にも同じく、正義の炎を胸に燃やし続ける魂をおいてほかにはない。
平成22年11月26日(金)に埼玉県の大宮ソニックシティーで行われた第73回民事介入暴力対策埼玉大会において、埼玉弁護士会民事介入暴力対策委員会は、全国各地の民暴事件を扱う弁護士に向け、現時点での反社会的勢力に対するための知識と経験を集約し、それを共有するための理論と資料とを準備した。それは協議会資料(上下2巻)として結実した。その内容を、専門家である弁護士だけではなく、広く一般国民に知ってもらうために企画されたのが本書である。
本書は、企業のコンプライアンス担当者を主な読者として想定しているが、意欲的な学生、主婦らに対しても開かれている。上記協議会資料の事例を精選し、分かりやすい解説を加えるなどした。しかし理論的な水準は一切落としていないことを断言する。上記資料中にあった誤りなどを気づく限り訂正し、また新たな重要資料を追加するなどしたので、同協議会資料を持っている弁護士も、それとは別に本書を手許に置く価値はあると思う。暴力団廃除条例についても、複数の該当箇所で言及しており、本書は、現時点での最新、最良の書籍と言っても過言ではない、と信じる。
本書が成るについては、たくさんの方々の協力があった。ことに埼玉弁護士会民暴委員会から選ばれた本書編集担当の阿部哲男、近藤直樹、桜井雄一、仲里建良、峰岸優子、山本泰生の各弁護士の情熱なくしては、本書の完成はなかった。書肆の担当者からは絶大なるご支援をいただいた。心から感謝する。誤り無きを期したが、なおあるべき過誤については、指摘していただけるとありがたい。
本書が、正義を希求する魂と魂とを結びつける役目を果たしてくれるなら、こんなにうれしいことはない。神々を生み出す機械をフル操業させるこの企てに参戦してくださる読者に向け、愛を込めて、本書を送り出す。
平成24年3月30日
埼玉弁護士会民事介入暴力対策委員会委員長
弁護士 大塚嘉一