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平成24(2012)年6月のコラム一覧へ戻る

妖星伝と利己的遺伝子

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

1.緑なす草木、歌う小鳥、疾駆する動物などなど、生命の営みは美しい。我々は、子供のころから、そのように自然を、そしてそれを擁する青い地球を賛美することを教えられ、疑うことを知らないまま大人になります。

しかし、その地球を「醜い」と断じるのが半村良のSF小説「妖星伝」です。

妖星とは、この地球のことなのです。

多種多様な生物が生を営む自然界、その背後には、相食み、相食らう醜い弱肉強食の世界が隠されているではないか、というのです。

私は、大学生のとき、この作品を読んで価値観がひっくり返るような経験をしました。

その後に、またまた価値観が大逆転するのですが、そのときは、そんなことが待ち構えているなど思いもしませんでした。

2.遠い過去に宇宙からやってきた存在が、事故に遭遇し、帰ることができなくなった。地球に漂流したそれは、ある計画を立てた。地上の生物の遺伝子に潜り込み、進化に介入し、加速させ、科学が発達した段階まで待って、その科学技術で地球を脱出するのだ。

「妖星伝」の粗筋です。

人間は、利己的に振舞う遺伝子の乗り物に過ぎない、という進化生物学のリチャード・ドーキンスの利己的遺伝子論そのものではないですか。

3.半村良は、ドーキンスの利己的遺伝子論を知っていたのか。それとも、作家の想像力の産物なのか。疑問は尽きません。ずっと疑問に思っていて、ときたま思い出したように、調査を続けるのですが、真相は一向に明らかになりません。

どなたか、ご存知の方がいらしたら、教えて下さい。甘酒を差し上げます。

4.さて、その後、私は、争いは万物の父である、という古代ギリシャのヘラクレイトスの言葉を知りました。さらに、その言葉からインスピレーションを得たに違いないニーチェの、「星の友情」にも出会いました。

敵となって争う相手にも、友情を感じることができる。なぜなら、我々は同一の法則にしたがっているだけなのだから、とニーチェは言うのです。

絶世の美女ヘレネーをめぐる争いであるトロイ戦争を描いたホメロスの「イーリアス」、そしてその戦争の真の理由が、地上に増えすぎた人間を減らそうと考えたゼウスの計略だったとされていることも、ニーチェの頭の中には、あったはずです。

協調が美しいのではない。争いが醜いのでもない。紛争には、一定の法則、秩序があるに違いない。

それを探るための道具は、美意識です。

弁護士となった私は、日々、こうして、争いの中に美を追い求める作業に没頭するのです

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