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平成24(2012)年8月のコラム一覧へ戻る

いじめと弁護士

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

1.いじめが問題となっています。

いじめを苦に子供が自殺したとの報道には胸が痛みます。

いじめの原因や対策については、たくさんの議論があることは承知しています。

ここでは、一視点から、問題提起をしたいと思います。

共同体は、層をなしている、という観点から。

2.子供のころ、物語を読んでいると、敵をだまし討ちにしたヒーローが褒め称えられていて、日頃、親や先生から、嘘をついてはいけないと教えられていることとのギャップに悩んだ人も多いのではないでしょうか。

嘘も方便という言葉を知っても、解決にはなりそうにありません。疑問はますます深まります。

理論的には、正義とは、どの共同体にとってのものなのか、という観点を抜きにしては論じることができない、ということなのだと思います。

集団の構成員に利益をもたらすものが正義とされるのです。端的には、戦争で敵を殺せばヒーローとなりますが、平時に人を殺せば殺人者となります。

家族、町内会、各種同窓会、NPO、学校、会社、地方自治体、官庁、裁判所、国家、国連、人類全体と、大小さまざまな共同体があります。

現時点では、一般に、最も効果的に人々の福祉を増大し、逆にこれを拘束するのは、国家です。そのために法律があります。裁判所は、法を実行あらしめるために存在します。及ばずながら、弁護士も、その一翼を担うことになります。

3.なぜ、いじめがあるのかということには、様々な見解がありそうです。子供がストレスを抱えているから。加害者の子供も暴力をふるわれているから。被害者になる前に、先回りしていじめをするから、などなど。

社会学的な理由もありそうです。

生物学的な根拠もあるのかもしれません。

子供のコミュニティーが、その均一性を維持するために、平均から逸脱した子供を標的にしているとも考えられます。

4.いじめには、どのように対処したらいいでしょうか。

いじめの被害にあっている子供を発見した場合、暴力をふるわれているようであれば、時にはとりあえず引き離すことが必要なこともあるでしょう。そして、子供のコミュニティーよりも大きな法治国家という枠組みがある、ということを知らせてあげたい。親や教師や、場合によっては警察や、児童相談所などが力になってくれることを教えたい。そして、今は苦しいかもしれないが、やがて子供のコミュニティーを脱して、広い世界で、その才能を開花させるチャンスもあると勇気づけてあげたい。最も大事なこととして、不条理に立ち向かう気概、勇気を養い育ててもらいたい。

加害者の子供には、その子が暴力をふるわれているなどの原因があるときには、その原因を取り除くことが必要です。そのうえで、いじめがエスカレートすれば、児童相談所や警察が関与することもあることを教育したい。なにより、いじめが卑怯であることを教えたい。

ウイリアム・ゴールティングの小説「蝿の王」は、無人島に流された子供たちの話です。十五少年漂流記などと違い、こちらは大人の読物です。ゴールティングはノーベル文学賞を受賞しています。大人がいなくなり、権威・権力が失われた世界で、子供たちによる殺し合いが始まります。やがて、島の沖合いに軍艦が姿を現し、大人による権威・権力の出現による争いの収拾を暗示して、物語は終わります。子供のコミュニティーで解決困難な問題が生じたときは、大人の介入が必要なのだと考えます。

弁護士は、いじめの被害を受けた子供やその親から依頼され、損害賠償請求などの手続きをとることができます。しかし、それは事後的な救済にとどまります。

弁護士及び弁護士会は、子供たちに、法による保護や制裁があると教育する際に、お役に立てることがあるはずです。

法そのものや、その実施について、そもそもそれが正義にかなったものであることは、大人たちの責任です。

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