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満たされない帝国(Restless Empire)を読む
1.アド・アーン・ウエスタド著「満たされない帝国-1750年からの中国と世界」2012年(Odd Arne Westad Restless Empire - China And The World Since 1750 (2012)) は、まさに時宜を得た本です。
中国は、今、世界中の注目を集めています。今後の世界がどうなるかは、今後の中国がどうなるかだ、とも言われています。
本書は、その現代中国を読み解くために、清の時代から説き起こします。かつて中国は、世界の中心ともいえる帝国であったこと、その後凋落したものの、現在、再び、かつての位置を取り戻そうとしていること。
著者は、読者の中国についての思い込みを排します。その定義は、中国とは、一つの文化であり、国であり、地域的な中心であって、そのアイデンティティー、境界、目的の輪郭が長い期間にわたって変転し調整されてきたもの、というのです。中国を、単なる国家とは見ていないのです。
そして、中国の特徴として、儒教の影響による自国中心主義を挙げ、現代中国も、その影響から免れていない、というのです。
2.ヨーロッパと中国との違いをどう説明するか。
かつては、人種が違う、先天的な能力に差異があるとの生理学的な説がはびこっていました。最近では、すっかり廃れてしまった議論です。
その後、封建制の有無に求める説(マックス・ウェーバーなど)、民主制か独裁制かを理由として挙げる説(ジョン・スチュワート・ミル、ジョセフ・ニーダムなど)など、制度論があります。
中国の儒教や、中華主義などの思想を理由とする説もありました。
現在では、地政学的理由をあげるのが、流行のようです。有名なところでは、「銃・病原菌・鉄」のジャレド・ダイアモンドでしょうか。ヨーロッパは、山川に分断されており、統一国家の形成が難しかった。これに対して中国では、一面の平野が続くので、いったん戦闘となれば、一帯が占領されてしまい、地方分権的な体制ができなかったというのです。
ウエスタドの「満たされない帝国」が新しいのは、これらも考慮の上、人々、とりわけ指導者の心理、心象風景まで考えていることです。
3.日本と中国との関係でも、同様です。日本は、近隣にありながら、中国の支配を受けなかった唯一の国ですが、日清戦争では、日本が勝利します。
ウエスタドは、軍国主義日本が、平和を愛する清を一方的に侵略した、という単調な見方には同調しましせん。この点、当時の状況を、どちらが勝つか負けるかは流動的であり、緊張関係にあったと見ようとする最近の歴史学の主張に通じるものがあります。
そして、著者によれば、中国にとっては、日本は、中国がたまたま弱体化した時期に勢いを得た国に過ぎず、中国人は日本に対するルサンチマンを抱えているというのです。
4.著者は、中国の指導者に対して、警告します。中国は、国際紛争に対して、中華思想で押し通そうとするのか、協調しようとするのかの決断を迫られている、と。
著者の声は、我々日本人にとっても、合わせ鏡のように、響きます。日本人として、台頭する中国とは、とのように向き合うべきなのか。
本書には、安倍晋三首相の名はでてきませんが、本書の出版がもう少し先にのびていたら、必ず記述があったはずです。
日本の指導者、中国に関心を持つ一般人の必読書です。早期の邦訳が期待されます。