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平成25(2013)年7月のコラム一覧へ戻る
一体全体この天体に何が起こったてんだい?
1.Christopher Lloyd What On Earth Happened? (2012) が売れているようです。著者は、イギリス人のジャーナリスト。ビッグバンから現代までを、理系と文系の双方の視点から、たった一冊で、物語ります。それで、邦訳の題名は、「137億年の物語」。それより、このコラムの表題の方が、圧倒的に、抜群にセンスが良いと思いますが、どうでしょうか。訳者は、野中香方子という方。出版社は、文芸春秋社。2012年の出版。
ごく最近の知見も取り入れられていたりして、知識の整理にも役立ちます。何を切り捨てるかが勝負ですから、これが書かれていない、この人物が取り上げられていないと言い出したら、きりがありません。ニーチェが出てこないのは、ニーチェ好きとしては、大いに不満ですが。
読み通せば、この地球と人間を含めた生物とに、改めて愛着を覚えること必定の良書です。著者は、自分の子供たちのために本書を書いたとか。著者の、世界に対する愛情が、子供たちに対する愛情が伝わってきます。本書は、改訂版で、福島の原発事故に関連して書き換えられたそうです。
英文は平易。
日本語の方なら、小学生でも楽しめます。
2.一点だけ、気になった点がありました。
日露戦争の日本海海戦、一言、日本の連合艦隊は、ロシアに、「夜襲で」(in a surprise night-time attack)勝った、と記載されています(原著の362頁)。
それはないでしょう。
たしかに、夜間の攻撃で、大分、相手に打撃を与えたのは事実です。
しかし、日本海海戦と言えば、T字戦法だし、下瀬火薬でしょう。最近では、日本が、独自の無線通信装置を備えていたことが評価されているようです。
奇襲と言われると、日本人としては、パールハーバーを思い出して嫌な気持ちがします。パールハーバーは、日本人が背負っていかなければならない十字架です。暗号の解読に手間どり、宣戦布告を遅らせた日本の外交官には、今でも憤りを覚えます。
日本海海戦での日本の勝利の原因を、夜襲で、としか書かないのは、日本がずるをして勝ったような印象を与えて、読者を誤導しかねません。総体として、日本は、正々堂々と戦ったのです。
著者には、速攻で、苦情をいれておきました。
BBCは、中国語の翻訳は用意してあるのに、日本語のは、ありません。イギリス人は、日本が嫌いなのでしょうか。
本書の訳者と出版社は、この点をどう考えているのでしょうか。著者に問い合わせたり、意見を述べてはいないのでしょうか。
訳書の当該箇所には、ただ「日本海軍がロシア艦隊を壊滅させ(た)」(453頁)としか書かれていません。
訳者及び出版社には、日本に対する愛情がないのでしょうか。
愛情あふれる本書から、訳者及び出版社は、日本に対する愛情だけは学び損ねたようです。