メインメニュー


弁護士が執筆するコラム - 埼玉県さいたま市の弁護士事務所- 菊地総合法律事務所は、相続、不動産、同族会社の案件や、株式買取請求などの非公開会社の案件を多数解決しています。その他、交通事故や貸金などの一般民事事件、離婚、財産分与などの家事事件、少年・刑事事件、そして企業法務や自治体の法務にも経験をつんでおります。


ナビゲーション

平成26(2014)年3月のコラム一覧へ戻る

岡口基一著「要件事実マニュアル」の誤りを正す

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

1.岡口基一判事は、斯界の有名人。

とても変わった人です。自分の半裸体を自画撮りして公表しています。

とても優秀な人です。彼の書いた要件事実の本はすごくよく売れているそうです。要件事実と言うのは、簡単に言うと、裁判の際、問題となる事実で、裁判官はもちろん、弁護士も気をつけなければならない重要な事実のことです。

噂を聞き、彼の本を買って、パラパラと目を通してみたところが、一部に気になる個所がありました。

2.その本は、「要件事実マニュアル第5巻(第4版)家事事件・人事訴訟・DV」。問題の個所は、375頁の「遺言と異なる遺産分割」のところ。

次のように書いてありました。「相続人全員の合意があれば、遺言と異なる内容で、遺産分割協議や遺産分割調停をすることも可能である(遺言執行者がいてもである)(東京地判平成13年6月28日判タ1086号279頁(協議)、井上・遺産分割190頁)。」

ここは、次のように書くべきです。「相続人全員(遺贈があれば受遺者を含む。)の合意に基づき、遺言と異なる内容の遺産分割協議や遺産分割調停をすることができると解されている。相続人だけで、相続登記の効力に関してであるが、遺言執行者がいる場合にも同旨を述べる判例がある(東京地判平成13年6月28日判タ1086号279頁)。」

受遺者がいる場合に、その者を抜かして、相続人だけでなした遺産分割協議を有効とすると、その受遺者の権利を害することになるので、それは無理です。受遺者がいる場合には、その者の同意も必要である旨は、省略できないと考えます。

また、遺言の内容にもよりますが、ほかにも問題は少なくありません。たとえば、遺言執行者を抜かしてなした遺産分割協議が有効だとしても、遺言執行者からの報酬請求が認められるのではないか。遺言内容からの変更は、贈与、交換等とみなされて、課税されるのではないか、などなど

3.その意味では、同書の当該箇所に、調停条項記載例として、遺言の内容を記載したうえで、それと異なる分割をした旨を書いたものが掲げられていますが、課税などの問題を考えると、その適否が問題となるでしょう。

4.私は、岡口判事に対しては、好感をもっています。(ただ服の趣味は受け容れられません。)

前記書籍も、良い本だと思っています。法曹向けのリファレンスツール、というコンセプトは有用です。

同判事の手になる同書が、今後、ますます光り輝くことを願い、私は、これからも、微力ながら、尽くしていきたいと思っています。

一覧へ戻る