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英語学習と仮定法
1.英語を外国語として学ぶ際、どの程度到達したかを表す基準としては、どのようなものがあるでしょう。
客観的な試験としては、日本においては、従前からこの業界では老舗の英検(実用英語検定試験)があります。最近では、実は日本発のTOEICがビジネスマンを中心に人気のようです。極最近では、イギリスのTOFLEを、大学入試に採用しようという提案がなされています。そのほかにも、いわゆる英語の検定試験は、多数あります。
それらとは別に、例えば、語彙(ボキャブラリー)ですとか、発音の上手下手ですとか、いろいろな基準がありそうです。
私は、英語学習の到達度の判定基準として、「仮定法」を挙げてみたい。
2.仮定法を基準とする英語学習到達度基準。
まず、初級です。仮定法を除いた部分がほぼ理解されている段階です。事実の描写、意見の表明、感想など、いろいろな表現があります。ただし、この段階では、いかに語彙を増やそうと、複雑な文法を駆使しようと、英語の半分しか理解していません。
次に、中級です。Ifを使った条件節を中心とする仮定法をひととおり理解している段階です。仮定法を理解すると、一挙に、英語の表現力、理解力が増大します。それは、英語は、現実の世界とは別の世界を想定して、その差をもって、表現を豊かにすることができるからです。
そして、上級です。Ifを使わない条件節を使った仮定法をも、自由自在に使いこなせる段階です。この段階で初めて、英語を理解したといえるのではないでしょうか。英語ネイティブの発想にも肉薄できそうです。
3.英語において、仮定法をマスターするためには、「時制」を、完全に理解している必要があります。時制とは、過去、現在、未来を表現する形式のことです。動詞の形からして違います。英語の世界では、その違いは、厳格に守られます。過去のことなのか、今のことなのか、あやふやな日本語とはえらい違いです。
時制は、名詞における単数・複数や冠詞の有無とともに、英語の文法上の最重要のポイントと思います。
その時制を前提に、時制をひとつずつずらして、仮定法が表現されます。例えば、私が鳥だったら飛べるのに、という文章では、If I were a bird, I could fly.となります。このとき、時制がずれているな、おかしいな、と感じることが仮定法を感じ、理解する第一歩です。
その意味では、現在、中学校では、時制を、学年ごとに、段階を踏んで教えているようですが、問題です。できるだけ早い時期に、過去形、過去完了形など、時制をひととおり教えるべきです。そして、時制に慣れる時期を確保すべきです。そして、仮定法とともに、時制の感覚をしみこませることが必要です。
仮定法を意識することは、日本語のように、とくに仮定法を構造上区別することなく生活している人間にとっては、とくに問題になりようがありませんが、英語圏では、重要な問題となります。
我々日本語を利用して生活している人間も、英語を意識して仮定法で考えてみるという思考実験をしてみると、新たな発見、発想が得られるかもしれません。
4.このように英語における仮定法は、現実の事実とは別の世界があることを前提としています。このことは、プラトン哲学のイデア論を想起せずにはおきません。ひいては、ニーチェの言うところのプラトン哲学の大衆版たるキリスト教を、そして西洋が生み出したサイエンスを。
この目に見える世界とは別の世界を想定するという思考方法は、どのように形成されてきたか。それと実際の思想との関係はどうなのか。言語との関係はどうなのか。
このような基本的な問題は、若い野心的な学者に任せることにしましょうか。そして我々一般人は、仮定法を意識することによって、改めて英語の感情表現の豊かさを鑑賞したり、評論文の厳格な論理の組み立てを愛でてみることにいたしましょう。英語を学ぶことの喜びを噛みしめながら。
でも、もし私が若い野心的な学者なら、仮定法とイデア論の問題を研究するのになあ。もし私が仮定法とイデア論の問題をずっと研究していたなら、今頃はどんなに重要な成果をあげていただろう。