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柄谷行人「帝国の構造 中心・周辺・亜周辺」を読む
1.柄谷行人「帝国の構造 中心・周辺・亜周辺」(青土社・2014年)を読みました。内外の文献が渉猟されており、良くできています。
本書が、凡百の帝国論と異なるのは、日本論と結び付けられて論じられる、その結論部分です。
日本にも、「帝国」となる可能性がある、その根拠は憲法9条だ、と言うのです。
ここいらへんが、柄谷ファンには、たまらないのでしょう。
2.帝国であれ、国家であれ、会社であれ、町内会であれ、夫婦であれ、人と人とが結びついた団体です。煎じ詰めれば、その結びつきが強いか弱いか、人数は多いか少ないかの違いです。
その人と人を結びつけているものは何か、が問題なのです。金(貨幣、通貨、生産力、生産様式、発明・発見、技術革新、資源)か、言葉(思想、イデオロギー、レトリック、プロパガンダ)か、その他(暴力、権威、権力への意志、伝統、カリスマ、合理的精神、信頼、宗教、知識、人口、美意識、慣れ・惰性、本能、尊敬・畏敬の念、地理的条件、神の意志?などなど)か。 それらは、あるいは人と人とを結びつけるのですが、反面、人と人とを峻別し、仲たがいし、反目しあうように作用するのです。それらと関係なしに、憲法9条など持ち出すから、笑われてしまうのです。
3.本書に決定的に不足している情報があります。
進化生物学など、理系の知識です。それぞれ個性を持った個人が、同じようなベクトルで動いてしまうのは何故か。心理学や生物学、数学などの知識がなければ、根本的な理解にはいたりません。
反対に、個性的な人間が、ワイルド・カードとして歴史を変えてしまうのを見るのは、歴史を学ぶ醍醐味です。
4.各紙、各誌とも、本書にお追従をいう書評で賑やかになることでしょう。今から楽しみです。