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吉川浩満著「理不尽な進化」を読む
1.吉川浩満著「理不尽な進化−遺伝子と運の間」(朝日出版社・2014年)が話題になっています。養老猛司や加藤典洋など、著名人が好意的な書評を書いています。
テーマとして、進化論を扱っています。これまでの全生物のうち、絶滅した種が99・9パーセントを占める、というのです。そして、絶滅した種からの視点が必要なのではないか、というのが著者の主張です。各書評も、そのような視点が斬新であると、絶賛するのです。
そうでしょうか。不条理については、古代から考えられてきたのではないでしょうか。旧約聖書中にも、数々の不条理にあい、果たして神はいるのかと問うたジョシュアがいるではありませんか。
ホロコーストで生き残ったエリ・ヴィーゼルは、「死者の眼」の視点を、我々に示していたではないですか。「死んだのが私であって、なぜ、お前ではないのか」、と訴える死者の眼を。
生きるというのは、この問いの答えを求め続けることなのではないでしょうか。
2.また、文系と理系を融合した点が新しいと、持ち上げられています。
本書のどこに、理系の独自の視点があるのでしょうか。そのような意味では、イーヴァル・エクランド著「偶然とは何か」(1991年)(南条郁子訳・創元社・2006年)のほうが、よっぽど、偶然について、数学の観点からの哲学的意味について、考えられています。
我々人類ではない種が、この地球上で、我が世の春を謳歌していた可能性は、明らかではないでしょうか。
3.本書が、一般の俗説進化論に対して、正確な進化論を提示した、というのであれば、そのとおりだと思います。
関係する書物が広く読まれ、よく整理されています。厳密に進化論を考えようとする著者の真摯な、誠実な態度が伝わってきて、感動します。
私も、進化の分子中立説が、科学としての進化論に、お墨付きを与えた、との指摘には、なるほどと思いました。これで、私の中で、分子中立説の位置が、ピタッと決まりました。
そうであればこそ、なんで、日本が世界に誇る分子生物学の木村資夫の名が、本書中には言及されていないのでしょう。著者が心酔するドーキンスの本の中でも、彼の名が言及されていたはずです。
これも一つの理不尽、ではないでしょうか。