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渡部昇一論
1.私は、昔から保守派の思想に親しみを感じていました。40年以上前の大学受験の入試の前日、当時の保守派のオピニオン雑誌「諸君!」を読みふけっている姿を、級友に見とがめられ、あきれられたことを覚えています。
2.当時の保守派論壇の重鎮は、田中美知太郎、福田恒存、高坂正堯。今だと中西輝政京都大学名誉教授でしょうか。いずれも、深い学識と、見識の高さが魅力です。このあたりをひいきにしておけば、保守派の中では安泰、左派からも、立場が違うからね、と認めてもらえる雰囲気があります。
ところで、渡部昇一上智大学名誉教授である。ベストセラーの「知的生活の方法」で、勉強する者が蒸し暑い日本の夏を乗り切るにはクーラーが必須であると、当然のことを主張し、当時の精神論をぶっ飛ばした功績を、私は高く評価したい。
保守派の論客としてはどうか。教授の魅力は、その初等幾何のごとき、論理の明晰さにあります。個々の論点についての意見には、疑問符がつくことがあるし、全体としてややエキセントリックなところがある。
同じような人物を探すと、ソビエト連邦の崩壊を予言した小室直樹か。
ご両人とも、この人を尊敬しています、と、真顔で言うのには勇気がいる。
3.さて、去年(平成27年、2015年)12月の日韓慰安婦合意である。安倍政権は、日韓の懸案事項に、強引に、幕引きを図りました。
これに対する評価を巡って、日本の保守が、今、真っ二つに分断されています。
中西教授は、このような合意をした安倍政権に、お怒りの御様子。教授は、これまでも安倍政権の弱腰に対する不信を口にしてきましたが、今回も、はっきりと安倍政権を、叱っています。いわく、歴史をもてあそんだ、日本の将来に禍根を残した、と(歴史通2016年3月号)。
これに対して、渡部教授は、今回はアメリカと中国が問題であること、目前の危機から日本を救うための措置であろう、として安倍政権を高く評価しています(Will2016年4月号)。教授は、さりげなく皇室をもちあげるあたり、日本のエスタブリッシュメントに近しいのかしら、とさえ思わせる風情です。逆に、中西教授は、海外の事情に通じてはいても、日本の中枢とはあまりコミュニケーションができていないのかしら、と不安になります。
渡部教授は、日本は、これからもその正当性を主張していけばいい、として、それよりも保守派が分断されることの愚を説きます。
保守にも、理想主義者と、現実主義者がいます。
私は、批判的思考を持ち続ける現実主義の保守派でいたい。
4.今なら、声に出して言える。私は、渡部昇一のファンである、と。