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2020年 ベートーヴェン生誕250周年

執筆 : 代表弁護士 大塚嘉一

1.いささか旧聞に属しますが、昨2020年は、ベートーヴェン(1770−1827)の生誕250周年でした。私のCDコレクションも、ベートーヴェンが一挙に増殖。

同じ年の生まれに、ヘーゲル(1770−1831)がいます。

二人には、直接の交流はなかったようですが、ともにヨーロッパ文化、文明を代表するチャンピオンという点で、共通します。ともに、1789年のフランス大革命とその余波に遭遇し、共鳴し合っています。

2.ヘーゲルは、哲学の分野で、弁証法を完成させました。ベートーヴェンは、音楽の分野で、ソナタ形式を完成させました。どちらも異なったものがぶつかり合って、新しいものを生み出すという構造を有します。議論が大事ということにつながります。紆余曲折はあるものの、遡れば、古代ギリシャに源泉を求めることができます。

今、日本の中学校の学級会で、「少数者の意見を大切に!」という意見が出てくる背景となっています。

3.中国での革命は、易姓革命。これは権力が移譲した、というだけのこと。居酒屋の亭主が皇帝となっても、彼が民衆の代表者となることはなく、新たな権力者、独裁者になるだけ。

これに対して、日本には、古代ギリシャからの伝統こそありませんが、議論をすることが大事と説いた聖徳太子の十七条憲法の思想があります。それがどの程度世間に浸透していたかは不明ですが、伝統として何らかの形で明治維新そして自由民権運動の際に影響を与えていたに違いありません。弁証法やソナタ形式が我が国に紹介されたとき、当時の日本人は、あああれかと合点がいったはずです。少なくとも、受け入れられる素地はありました。ヨーロッパと同様、日本に封建制が成立し、やがて民主主義が発生し定着した理由の一つでもあります。本当によかった。

ちなみに、西ヨーロッパと日本にのみ封建制が成立し、後に民主主義が成長した理由として、もう一つ地政学的な理由が挙げられます。その二つの地域を除くユーラシア大陸では、平地が広がり、軍事的に優位な者が全地域を征服しやすく、そうなると独裁制を敷き、民衆はそれに歯向かう意欲をなくした、というのです。モンゴル帝国を思い起こすと、頷けますね。これに対して、上に挙げた二つの地域は、基本的に山岳地帯であり、軍事的に統一することが難しく、地域ごとの独自性が育まれた、というのです。

4.音楽にも哲学にも通じており、時間が有り余っている人は、アドルノの「ベートーヴェン 音楽の哲学」をどうぞ。

私は、日本人に生まれたことの幸福を噛みしめながら、今日も、ベートーヴェンのCDを聴きます。

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