2006.08.31

大塚 嘉一

「埼玉弁護士会副会長就任のご挨拶」 (初出:「埼玉弁護士会会報」2000年夏号)

 2480周年という民主主義にとって記念するべきこの年に、埼玉弁護士会の執行部の末席に連なることができることを、光栄に思います。

司法改革が急務です。日本の司法制度が、主権者たる国民の要請に十分応えていないことは明らかです。民主制の真価が問われています。

民主主義は、最善の制度というよりは、最悪の事態を避けるためのやむを得ない選択です。それは手間のかかる制度です。対話による不断の努力が不可欠の要素です。効率よく、妥当な結論を導く司法制度は、民主制の要です。

我々法曹の仕事は、個々の事件を解決するという日々の職務を行いながら、同時に、誰にでも当てはまる普遍的な「法」を追及する営みであると言うことができます。我々の最大の敵は専制と無秩序です。我々は、常に最強の敵と戦い続ける民主主義の戦士でなければなりません。

我々日本の法曹は、たまたま日本という国家から資格を付与されて仕事をしていますが、議論を通じて「法」を発見し、問題を解決するという司法的手法は、人類に共通の財産です。明治維新の際、司法制度を導入した我々の先輩は、欧米から押し付けられたという想いだけで仕事をしていたのではないはずです。

市民の紛争の解決が暴力団に任されるのでは、法曹の負けです。特許訴訟がアメリカの裁判所に持ち込まれるのでは、日本の司法制度の敗北です。

問題が生じたら、日本の法曹に解決を委ねよう、早く、納得の行く判断をしてくれる、と世界中から難題が持ち込まれるようになりたいものです。人類の司法制度の歴史に新たな一ページを付け加えるような、そんな改革を実現したいものです。日本の弁護士だけではない、日本の法曹だけではない、日本国民だけではない、世界中の人々が平和に暮らせるような、新しい世界大の民主主義を、どう構想するか、ということが問題なのだと考えます。埼玉弁護士会は、徹底した議論を通じて、すばらしい改革案を提案することができるはずです。

埼玉弁護士会のいいところは、会員が、誰でも自由に自分の意見を主張できることです。

このような大事な時期に、会の運営のお手伝いができることを幸せに思います。紀元前480年、民主的な都市国家のギリシャ連合軍が専制国家ペルシャの大軍を打ち破ったサラミスの海戦に、民主主義の源泉を見、インスピレーションを求め続ける一人として。