2017.01.15
ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史」(Yuval Noah Harari Sapiens – A Brief History of Humankind 2011・2014)を読む
1.ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」(日本語訳2016年)が、大評判です。想像力こそが、現生人類(ホモ・サピエンス)が生き残り、地上にはびこるようになった理由だとして、国家や言語や貨幣は人間が共有する幻想であると主張します。
凡百の共同幻想論と違うところは、歴史学者らしく、テーマに関わる古今東西の歴史上の事象を収集しているところです。のみならず、人類の滅亡を含めて、様々な未来を提示しています。圧巻です。
特に、貨幣の意義を強調しているところが、分かってるなあ、と。
貨幣の交換価値として、土地を忠誠に、正義を健康に、暴力を知識に転換できる、と、何の注釈もなしに記述します(原著207頁、日本語訳(上)231頁)。
しかし、異なるカテゴリーのものが、変換することができるという重要な指摘をしながら、何故、貨幣がそのような価値を持つのか、その根拠は何か、何がいくらに評価されるのか、などについては言及していません。
弁護士の仕事としては、例えば、交通事故の被害者が、慰謝料をいくらもらえるのか、という問題になります。
私は、司法試験の受験生の時代から、苦痛がなぜ金銭になるのか疑問に思い、ずっと考え続けてきました。
その結果、現在、一方で、人と人とを結び付け、他方、これを排斥する機能を営むものとして、精神活動の中心としての言葉、身体及び財貨の中心としての貨幣、そして個々人を結びつける紐帯としての権威(呪術、暴力から国家まで)を抽出し、その相互の転換のメカニズム及びその定式化に努力しています。まだまだ満足のいく答えが出たわけではありませんが、ニーチェの、良心のやましさの起源は取引の負債にある、との言葉は、おおいなるインスピレーションとなっています。
私が本を出す意味はまだまだありそうです。
2.今年1月20日、貨幣に操られている人間が重要な役職に就きます。彼が、貨幣を、正義や愛に転換できるかどうかによって、今後の全世界の運命が変わってきます。
彼が、貨幣だけでなく、政治にも興味があるらしいことは分かりました。それを本物にすること、さらに彼の興味、関心の対象を、学問や科学、宗教、文学、愛などに振り向ける方法を、みんなで考えること、そしてそれを彼に教える必要があります。
彼、ドナルド・トランプが、自身の使命に目覚めてくれることを祈らずにはいられません。
3.日本語版には、科学が、何故ヨーロッパで生まれたのか、非西洋ではなぜ日本がいち早く科学革命に成功したのか、という問題についての記述があります((下)98頁)。英語版には、そのような記述がありません。ヘブライ語の原著には、あるのでしょうか。
4.本書は、これで完結するものではありません。むしろ、ここから始まるのです。なぜなら、著者の結論である、「私たちは何になりたいのか、ではなく、何を望みたいのか」が問題であるという結論は、「汝自信を知れ」という究極の哲学のテーマに合致しているから。