2006.09.29

大塚 嘉一

同族会社の株式買取請求

1.東大の経済学の岩井克人教授は、「不均衡動学」という極めてアカデミックな研究で著名ですが、その興味関心は単に経済に留まらず歴史、思想、哲学などにも及び、数々の啓蒙的な著作を世に問うています。「会社は誰のものか」(岩波書店・2005年)もその一つであり、堀江貴文氏のライブドアーの問題が浮上してからは、ますます法人の本質を考えるうえでの必読の一冊となりました。

そもそも1602年に設立されたオランダの東インド会社が株式会社の「元祖」とされますが、出発点は出資者の責任を制限し、所有と経営を分離するというものです。これに対して、近年アメリカ流の「株主主権論」のように株主万能ともいうべき風潮がありました。これに棹差したのが、岩井教授の意見と見ることができます。しかも単なる懐古譚ではなく、新しいポスト産業資本社会に適合する法人像が模索されています。

2.所有と経営の分離という原則は、株式の譲渡が制限されている会社いわゆる同族会社(閉鎖会社、非公開会社)にも貫かれています。

したがって、株主の意向と経営陣との意見の対立・衝突はありえます。

かつては友人知人や親族で一体となって会社経営に当たっていたが、その後、経営方針の違いが表面化したり、あるいは株主が亡くなり会社経営に必ずしも適しているとは限らない相続人、経営にそもそも関心のない相続人に相続されるなどのことがありえます。

そこで、経営には関与をせずに株式の価値を現実化したいと考える人には、株式の買取請求権が認められています。新しい会社法には、旧法とほぼ同様の規定があります。これは、まず株式を買ってくれる人への譲渡の承認を会社に対して求め、それを拒否する会社は自らこれを買い取る等の対応をしなければならない、というものです。したがって、株主は、最終的には株式を現金化し、投下資本を回収できるのです。

3.ただし株式をいくらに評価するのかは、非常に難しい問題です。会社の資産内容、配当などの経営状態、経営陣の今後の経営方針等に大きく依存するでしょう。のみならず、その評価方法について、判例・学説とも流動的です。ここに法人の本質論が影響してきます。

今、株式の買取請求権を行使しよう、あるいはこれを買い取ろうとして、その価値を見極めたいと考えている人は、新しい判例をつくる気概が必要とされているようです。